デンマーク・デザインの魅力④ アーネ・ヤコプスン[アルネ・ヤコブセン]の仕事
2017/11/04
ただ今当館で開催中の「デンマーク・デザイン」展の魅力に迫るブログシリーズの4回目、
最終回は、アーネ・ヤコプスン[アルネ・ヤコブセン]の仕事をご紹介します。
ヤコブセンは、デンマーク・デザインの巨匠として国内外で知られる著名な建築家です。
彼は、市庁舎や小・中学校、劇場などの公共建築の設計をはじめ、その内装や調度品、備品類に至るまで
あらゆるもののデザインを手がけました。
その中でも代表的な仕事がSASロイヤルホテル(現 ラディソンブル・ロイヤルホテル)の一連のデザインでしょう。

代表作の〈エッグチェア〉も、SASロイヤルホテルのロビーのためにデザインされました。
硬質発砲ウレタンという新素材を椅子に使用したことで世界初となりますが、何といってもその独特なフォルムが印象的です。

半円を描くほどの大きな背もたれにすっぽりと包み込まれるような形状は、ホテルのロビーでの使用を考慮したものです。
多くの人が集う空間をプライベートスペースとして区切る、間仕切りとしての機能も持ち合わせたユニークなデザインです。
アルミニウムでできた回転する脚も、安楽椅子としての機能をより高めています。
ヤコブセンはこのホテルのために、ランプやカトラリー、ドアノブまであらゆるもののデザインを手がけました。

洗練された印象のフォークやナイフの中で、目を引くのが右端のスープ用のスプーンです。
なぜ2本あるかお分かりでしょうか?左側が左手用、右側が右手用と、利き手に合わせてデザインされたためです。
その他にも、ヤコブセンと言えば一枚の成形合板でできた〈アントチェア〉が有名です。
デンマークの製薬会社のノボ ノボルディスクの社員食堂用に制作依頼をうけたもので、
同じ型の椅子を大量に生産できることが求められました。
当時、成形合板を使った一枚板の椅子の先行例として、フィンランド・デザインの巨匠アルヴァ・アアルトによる〈パイミオ・チェア〉がありましたが、量産には向かない素材とされていました。
ヤコブセンは家具製造会社のフリッツ・ハンセン社と協働し技術開発に取り組み、世界で初めて、背と座が一体となった椅子の大量生産に成功します。スタッキング機能も付加され、世界の注目を集めました。

ちなみに〈アントチェア〉の初期モデルは、出品作品のようにスチール製の3本脚が採用されていました。
しかしその華奢な印象が不評となり、のちに4本脚に変更されます。
この成形合板を素材とした椅子で最も有名なものに〈セヴンチェア〉が挙げられます。

〈セヴンチェア〉は北欧史上最大のヒット作と言われ、目にする機会も多いのではないでしょうか。
バリエーションも様々で、カラフルな塗装が施されたものや、布地にくるまれたものもあります。
静岡会場では、北欧モチーフのファッションブランドとして知られるミナ ペルホネンと
コラボレーションしたタイプのものを出品しています。
ミナ ペルホネンで人気のパターン'tambourine(タンバリン)'が'dop(ドップ)'という生地に刺繍されたものです。
ちなみに'dop'は、使い込むうちに摩擦で表面の糸が擦り減り、裏面の色が現れる新素材。この椅子の場合、青色が現れる仕組みです。
その他、展覧会ではヤコブセンがデザインしたテキスタイルも出品しています。
1943‐45年、ヤコブセンは戦禍を避けるため、スウェーデンに亡命します。この2年間の間に手がけた貴重なものです。

モチーフは草花などの植物が中心です。
実は園芸好きだったことでも知られるヤコブセン。植物がもつ自然美を表した洗練されたデザインです。
1950年‐60年代に黄金期を迎えたデンマーク・デザインは、「オーガニック・モダニズム」と呼ばれ、世界の注目を集めました。そのデザインを特徴づけた一つに、ヤコブセンの自然の造形美を取り入れた有機的なフォルムがあったのです。
「デンマーク・デザイン」展も残すところあとわずかとなりました。
出品点数は約200点あまり。
今年で創業240年以上となる陶磁器ブランドのロイヤル コペンハーゲンにはじまり、木を素材としたオーガニックなデザインの椅子や玩具、照明器具や音響機器まで様々です。
デンマークの近代から現代までのデザイン史をたどれる展覧会、ぜひお見逃しなく。
皆さまのご来館を、心よりお待ちしております。




(s.m)
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