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ミュージアム カフェ トーク 七夕をめぐって

2012/07/19

2012年

6月30日(土)13:30 静岡科学館る・く・る イベントホール
7月  1日(日)16:00 静岡市美術館 多目的室



 いま静岡市美術館で開催中の展覧会「七夕の美術」は、JR静岡駅前に位置する3つの文化施設による「静岡音楽館AOI×静岡科学館る・く・る×静岡市美術館 共同事業」のひとつ。それぞれで七夕をめぐるさまざまな事業が展開されているが、6月30日と7月1日にはミュージアム カフェ トークが行われた。
 6月30日は静岡科学館る・く・るで国立天文台副台長・渡部潤一による講演会。織姫(ベガ)と彦星(アルタイル)は16光年(諸説ある)も離れているので、光の速度でも毎年逢うことはできないが、星の生涯を人間の生涯に換算すれば10秒に1回(諸説ある)は逢っていることになる―なんていうおもしろ味たっぷり、子どもにも判りやすい語り口で、星空の壮大なパノラマを手にとるようにありありと想い描かせ、旧暦の七夕には舟のかたちに欠ける月が、天の川をはさんで位置するベガとアルタイルをとり結ぶのだという、天体の運動に七夕の伝説が生まれた背景を読み解くみごとな解釈は、ロマンティックでありながら、しなやかな説得力があってとても愉しかった。

 


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 翌7月1日は静岡市美術館で。静岡音楽館AOI企画会議委員で国立劇場芸能部副部長の田村博巳をゲストに、この展覧会をつくった学芸員・吉田恵理がコーディネーター。この展覧会は、静岡音楽館AOIの委嘱作品、寺嶋陸也の作曲による箏歌《星合曲(ほしあいのうた)》から着想された。寂蓮、山上憶良の詩(うた)を田村博巳が構成したその詞章は、寂蓮の「七夕の 逢う夜の庭に おく琴の あたりにひくは ささがにの糸」に始まるが、それはいにしえの七夕の儀式、乞巧奠(きっこうでん)にまつわる。トークでは、たぶん30分以上かけて、この31文字(みそひともじ)を丹念にひも解き、乞巧奠の奥深い世界をつまびらかにした。いまも京都の冷泉家に粛々と伝わる乞巧奠、そこでしつらえられる祭壇《星の座》がこの展覧会で再現されている。まずふつうに眼に触れられるものではない。

 


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 さらにこのトークは、日本の伝統の範疇とはいえ、奈良・平安から現代も含み、京阪、江戸、琉球に及んで、音楽と美術に風俗・風習を交えて、七夕にまつわる文化を縦横無尽に渉猟し、そこに、季節のうつろいとともにある、つつましやかな「願い」や「想い」をかいまみせた。かつての日本には、そうした趣の豊穣な世界があって、どうして私たちはそんなすてきな感性を忘れかけようとしているのだろう―。あらためて北野恒富の《願いの糸》という作品を観ると、それがただたんに美人画として優れているだけでなく、描かれた彼女の心情を、生々しいまでに活き活きと実感できる。つい100年ぐらい前まで、七夕についての前提的な了解が日本の文化的な共通理解としてあったはずだ、という認識は、けっこう重たい意味を孕んでいると思う。重たい意味を孕んではいるけれど、こんな展覧会が、七夕のほんとうの季節、初秋の風にも似て涼しげに、さりげなく、私たちが失いかけているたいせつなものを想いおこさせてくれる。

 

小林旬(静岡音楽館AOI学芸員)